大学職員が知っておくべき法律のキホン~私立学校法(第3章学校法人)~

「大学職員が知っておくべき法律のキホン」もとうとう最後となりました。

最後は「私立学校法 第3章学校法人」。

総務関係の仕事に就くと関わってくる条文が多い章です。

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第3章 学校法人   第一節 通則

<資産>
第二十五条  学校法人は、その設置する私立学校に必要な施設及び設備又はこれらに要する資金並びにその設置する私立学校の経営に必要な財産を有しなければならない。

学校法人を設置するためには、教育研究を行うのに必要な施設・設備や財産を有していなければなりません。

  • 施設:建物敷地、校舎
  • 設備:机、いす
  • 資金:施設・設備を購入できるだけの資金
  • 経営に必要な財産:現金、預貯金

学校がこれらの財産をどれぐらい持っているのかは【財産目録】で知ることができます。
例:早稲田大学の財産目録掲載ページ


<収益事業>
第26条  学校法人は、その設置する私立学校の教育に支障のない限り、その収益を私立学校の経営に充てるため、収益を目的とする事業を行うことができる。(中略)

 第一項の事業に関する会計は、当該学校法人の設置する私立学校の経営に関する会計から区分し、特別の会計として経理しなければならない。

学校法人は学校の経営基盤の強化のために収益を目的とした事業を行うことができます。
これを収益事業と言います。

収益事業は通常の会計とは別に集計しなければなりません。
収益事業が別会計で報告されていることが分かります。

不動産賃貸業と出版業を行っている大学が多いようです。

第3章 学校法人   第二節 設立

<申請>
第30条  学校法人を設立しようとする者は、その設立を目的とする寄附行為をもって少なくとも次に掲げる事項を定め、文部科学省令で定める手続に従い、当該寄附行為について所轄庁の認可を申請しなければならない。

  1. 目的
  2. 名称
  3. その設置する私立学校の名称 (以下略)

大学職員になってから初めて聞いた言葉、「寄附行為」。
寄付行為には2つの意味があります。

  • 財産の寄附する行為

学校法人を設立しようとした場合、設立者が法人に私財を寄附する形で法人は設立されます。
その行為自体を「寄付行為」と呼びます。
寄附という形をとるので、後に解散したとしても、その人に財産は戻ってきません。

  • 学校法人の基本規則集

学校法人の根本規則をまとめたルールブック。
寄付行為によって寄付された財産をどのように使うのかルールとしてまとめたもの。
具体的には、上記の条文のように、法人の設立目的や名称、理事会に関することが記されています。
これは、会社の定款に相当します。

例:明治大学寄附行為


<認可>
第31条  所轄庁は、前条第一項の規定による申請があった場合には、当該申請に係る学校法人の資産が第二十五条の要件に該当しているかどうか、その寄附行為の内容が法令の規定に違反していないかどうか等を審査した上で、当該寄附行為の認可を決定しなければならない。

学校の設立の申請があった場合、寄付行為を中心に文部科学大臣が審査し、認可を決定します。

このことが世間的に大きな話題となったのが平成24年の秋。

当時、大臣に就任したばかりの田中真紀子文部科学大臣が、申請されていた3大学の開設を突然不認可の決定を下したのです。

その後、各方面から大きな反発を受けた田中氏は決定を全面撤回し3つの大学は無事開学されました。

私立大学と言えど、政治に振り回されることがあるということを実感する騒動でした。(参考

第3章 学校法人   第3節 管理

<役員>
第35条  学校法人には、役員として、理事五人以上及び監事二人以上を置かなければならない。
2    理事のうち一人は、寄附行為の定めるところにより、理事長となる。

<理事会>
第36条  学校法人に理事をもつて組織する理事会を置く。
2    理事会は、学校法人の業務を決し、理事の職務の執行を監督する。

学校法人の意思決定機関は理事会です。そして理事会のトップが理事長です。
学長は大学のトップ。学校法人のトップは理事長です。


<評議員会>
第41条  学校法人に、評議員会を置く。
2     評議員会は、理事の定数の二倍をこえる数の評議員をもって組織する。

大学職員になるまでは、スターウォーズぐらいでしか耳にしたことなかった言葉、「評議員会」。
大学には評議員会があります。
大学の公共性を確保するため、理事会に対する諮問機関という目的で設置されています。

どのようなことが議論されるのかは次の条文で。


第42 次に掲げる事項については、理事長において、あらかじめ、評議員会の意見を聞かなければならない。

  1. 予算、借入金及び重要な資産の処分に関する事項
  2. 事業計画
  3. 寄附行為の変更 (以下略)

第43 評議員会は、学校法人の業務若しくは財産の状況又は役員の業務執行の状況について、役員に対して意見を述べ(中略)ることができる。

「法人にとって大事な議案は理事会だけでなく、評議員会でも議論して公共性を確保しなさいよ」ということのようです。
では、どんな人が評議員になれるのか?

それは次の条文で。


<評議員の選任>
第44条  評議員となる者は、次の各号に掲げる者とする。

  1. 当該学校法人の職員のうちから、寄附行為の定めるところにより選任された者
  2. 当該学校法人の設置する私立学校を卒業した者で年齢25年以上のもののうちから、寄附行為の定めるところにより選任された者
  3. 前各号に規定する者のほか、寄附行為の定めるところにより選任された者

評議員は、理事長、学長、法人教職員、学生の父母などを選出している法人が多いようです。
法人以外から幅広く意見を聴くという意味では、民間会社でいう株主総会に近いかもしれませんね。

例:中京大学 役員と評議員


<評議員会に対する決算等の報告>
第46 理事長は、毎会計年度終了後二月以内に、決算及び事業の実績を評議員会に報告し、その意見を求めなければならない。

<財産目録等の備付け及び閲覧>
第47条  学校法人は、毎会計年度終了後二月以内に財産目録、貸借対照表、収支計算書及び事業報告書を作成しなければならない。

<会計年度>
第48条  学校法人の会計年度は、四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終るものとする。

決算を5月末までにまとめ、理事長が評議員会で報告し、社会に公表します。

例:中央大学│決算

6月になっても前年度の決算報告が公開されていない大学があったら、「この大学大丈夫かな?」と思いましょう。たまにあります。

 

第3章 学校法人   第4節 解散

 <解散事由>
第50条  学校法人は、次の事由によって解散する。

  1. 理事の三分の二以上の同意 (中略)
  2. 寄附行為に定めた解散事由の発生
  3. 目的たる事業の成功の不能
  4. 学校法人との合併
  5. 破産手続開始の決定
  6. 所轄庁の解散命令

<解散命令>
第62 所轄庁は、学校法人が法令の規定に違反し、又は法令の規定に基く所轄庁の処分に違反した場合においては、他の方法により監督の目的を達することができない場合に限り、当該学校法人に対して、解散を命ずることができる。

理事会や評議員会の決定による解散の他に、文科省が解散命令を下す場合もあります。

2013年には、創造学園大学などを運営する群馬県の学校法人堀越学園が文科省から解散命令を受け、その後破産手続きを開始しました。

学校法人堀越学園(群馬県)に対する解散命令の手続に至った経緯(文部科学省)

少子高齢化が進むことで解散する学校法人は今後増えてきてしまうかもしれません。


<合併手続>
第52 学校法人が合併しようとするときは、理事の三分の二以上の同意がなければならない。

最近の合併の例では、

  • 2013年 常葉学園大学・浜松大学・富士常葉大学⇒常葉大学
  • 2011年 上智大学・聖母大学⇒上智大学
  • 2008年 慶應義塾大学・共立薬科大学⇒慶應義塾大学

吸収合併する場合と、新法人が設立される場合があります。
解散以上に今後ますます増えてくるかもしれません。

第3章 学校法人   第5節 助成及び監督

 <助成>
第59 国又は地方公共団体は、教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律で定めるところにより、学校法人に対し、私立学校教育に関し必要な助成をすることができる。

学校法人にとって大事な収入源、国からの補助金。
私立と言えど、公共性の高い学校法人に公的補助を行い、その安定と繁栄に国は努めます。
大学職員としてどんな部署で働いていても関わってくるすごく大きなかつ大変な業務でもあります。
東洋大学の例を見てみましょう。

東洋大学 平成27年度資金収支計算書

平成27年度 国や地方公共団体などから補助金として37億円もらっています。
収入総合計681億円の内、全体の5.5%ではありますが、学生の授業料や入学検定料に大きく依存し、それらを改善することが難しい状況にある学校法人にとって、公的補助金は大事な収入源となっています。

補助金については別の機会で詳しく説明します。


私立学校法は以上となります。

また、これで「大学職員が知っておくべき法律のキホン」は以上となります。
長かった。。

大学職員として守るべきルールが多くあることを実感できたのではないでしょうか。
ただ、今回の記事をまとめる上で、多くの条文を割愛しました。
大学職員になったらすべての条文に目を通すことをお勧めします。

参考図書
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