「Small is beautiful」 という言葉があります。
ドイツ生まれの哲学者・シューマッハが1973年に刊行した書物のタイトルです。
彼はこの本でエネルギー危機の時代が到来することを予言しました。
奇しくも刊行から数か月後、第一次石油危機が勃発し、世界経済が大きく揺らぐことになります。
石油危機を予言したことで、彼は世間の注目を浴び、同書もベストセラーとなりました。
エネルギー危機だけでなく、彼は科学万能主義にも疑問を投げかけました。
経済の拡大は本当に良いことなのか?
大量生産・大量消費の経済が本当に人間を幸せにするのか?
彼の考えは現代でも多くの人に支持されており、「Small is beautiful 」は一種の合言葉として世界中で言われ続けています。
彼が掲げた理想論は、当時は夢物語だったかもしれない。しかし、現代において、本人の予想とは違った形で実現されつつあるのかもしれない。
落合陽一さんの講演を視聴した際に、そう思いました。
今回はそんな世界的ベストセラー『Small is beautiful 』についてまとめてみました。
本の著者シューマッハについて
本の著者シューマッハは、1911年にドイツで生まれ、その後イギリスで活躍した経済学者・哲学者です。
イギリスでは、かの有名なケインズに師事しました。
ケインズのシューマッハへの評価は高く、ケインズは自らの後継者としてシューマッハの名前を挙げるほどでした。
そんな彼は経済学者という傍ら、石炭公社で20年以上勤務しました。
石炭公社での経験と経済学者としての知見から、エネルギーの枯渇を予測したシューマッハは、その分析結果を一つの本にまとめました。
その本が1973年に刊行された『Small is beautiful 』でした。
『Small is beautiful 』の内容
彼はこの本で主に2つの主張を行いました。
・エネルギー危機が近い将来訪れる
・大量消費に支えられた拡大経済は人間の尊厳を蝕む
そして、「消費主義と経済拡大主義を人間の本性に戻ってチェックし直さない限り、人類はいつか破滅する」と警鐘を鳴らしたのです。
彼は、「技術発展」や「経済拡大」が何の疑いもなく、称賛される状況に大きな危機感を覚えました。
拡大経済に裏打ちされた際限の無い膨張主義は、資源・環境の両方において自然を破壊していく。それだけでなく、働く人々の尊厳をも奪い、人間疎外を招くことになると考えます。
そんな危機を防ぐためには、技術を人間の身の丈に合った規模(=人間の顔の見える技術)に変えるべきだと主張します。
「私は技術の発展に新しい方向を与え、技術を人間の真の必要物に立ち返らせることができると信じている。それは人間の背丈に合わせる方向でもある。人間は小さいものである。だからこそ小さいことは素晴らしいのである(Small is beautiful) 。巨大さを追い求めることは、自己破壊に通じる。」(本書p.211)
巨大主義から離れ、適材適所の資源環境に適応した人間の背丈に合った技術を開発するべきだと説いたのです。
『Small is beautiful 』の実現のために
では、「人間の顔の見える技術」を実現するためにはどうすればよいのでしょうか。
彼は「大量生産」の代替として「大衆による生産」を唱えます。
「大量生産のよって立つ技術は、非常に資本集約的であり、大量のエネルギーを食い、しかも労働節約的である。・・・大衆による生産においては、誰もがもっている尊い資源、すなわちよく働く頭と器用な手が活用され、これを第一級の道具が助ける。大量生産の技術は、本質的に暴力的で、生態系を破壊し、再生不能資源を浪費し、人間性を蝕む。大衆による生産の技術は、・・・稀少な資源を乱費せず、人間を機械に奉仕させるのではなく、人間に役立つように作られている。」(本書p.204)
つまり、「労働集約的な大量生産の技術を使うのではなく、多くの人が携わるような技術を導入して、その土地の資源と働く人の知識を活かした生産を行おう!」というのが、彼の主張でした。
機械が人を働かせるのではなく、機械やその土地の資源や人類の英知を駆使して人間が生産を行う。
彼のこの代替案は、現代の我々から見ると、どこか現実性に欠けているように感じます。
昨今の流行りであるAIやRPAが企業にどんどん導入され、ますます人間が機械に置き換えられることが予測されているからです。
この状態は、依然としてシューマッハが警鐘を鳴らした大量生産のままです。
大量生産から脱却し、彼が理想とした「Small is beautiful」な社会は実現できないのでしょうか。
そんなことを思っていた時に、落合陽一さんの講演動画に出会い、彼こそ「Small is beautiful」を実現できる改革者ではないかと思いました。
落合陽一が実現するダイバーシティ生産
筑波大学准教授の落合陽一先生。
彼の研究は多岐に亘っていますが、その一つがダイバーシティ生産を可能にするソフトウェアの開発です。
今までの大量生産大量消費はとても効率の良い経営方法でした。
しかし、そんな生産方法の中では、取りこぼされてしまう少数の人々が少なからずいました。(例えば、障がい者の方など)
個々人の課題・特徴に柔軟に個別に対応できるソフトウェアを作成し、そのソフトウェアが機械を動かせば、多様な個々の課題に対応できる一般的な製品が作れるのでは?(=ダイバーシティ生産)という発想から、彼はその研究をしています。
詳細については、下記動画をご覧ください。
大量生産の時代には、個々人のオリジナルなニーズは見て見ぬふりをしなければなりませんでした。
しかし、今後は個人オリジナルなニーズをいかにソフトウェアに落とし込めるかが競争に打ち勝つ要素になってくるのだと思います。
その時に必要になってくるのが、「目の前の人の個別なニーズを、いかにシステムに反映させることができるのか。」柔軟な対応力が問われてくるのだと思います。
見た目は同じ機械だけど、中身のソフトウェアは利用者のニーズによって異なってくる。
つまり、今まで主役は機械でした。その機械に人間が合せなければならいけませんでした。
しかし、今後は人間が主役となり、それぞれのニーズに機械が答えてくれる時代がやってきます。
これぞ現代版「Small is beautiful」と言っても良いのではないでしょうか。
シューマッハの思い描いた理想とは違うかもしれませんが、大量生産の時代を超えて、少しずつ顔の見える技術が実現されてきているのではないでしょうか。
社会の歯車になっていた人間疎外の時代から、顔の見える多様性ある社会に。
現代の技術を発展させていくことで、シューマッハが描いた理想も実現されていくのかもしれません。
そんな社会の実現に向けて、落合陽一先生の「ダイバーシティ生産」に大きく期待しています。
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