進化論の新説を学ぶ~記憶は遺伝する?~

2013年12月、イギリスの科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス」に議論を呼ぶ論文が掲載されました。

親の記憶・経験は次世代に遺伝する

という論文です。論文リンク

今までの生物学は、ダーウィンの進化論を出発点とした
「学習や経験など後天的に身につけたものは遺伝しない。」
という説が一般的でした。

今回の論文はそんな生物学の定説を覆すものであり、大きな話題を呼びました。

「記憶は遺伝する」というその新たな説は、考えようによっては人々に希望を与えるものかもしれません。
Mr.childrenの桜井さんはこの説をアイデアにして『進化論』という曲を作成しました。
その曲は壮大な世界観で人々に希望を与えるような曲となっています。

今回はそんな進化論の新たな説について、生物学を一度も勉強したことのないド文系の私が理解できる範囲で調べてみました。

~進化論の歴史~

今回発表された研究結果を知る前に、
まずはダーウィンを中心とした進化論の歴史について学んでいきます。

代表的な「哺乳類の中で、なぜキリンだけ首が長いのか?」という問いに対する答えを例に、進化論を学んでいこうと思います。

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キリンの首はなぜ長い?

18世紀の常識

A:神がそのように創造されたから

聖書の冒頭には、神が6日間で世界と動植物と人間を創造したストーリーが描かれています。

1日目:光と闇を区別
2日目:空を造る
3日目:陸と海を区別
4日目:太陽と月を造り、昼と夜を区別
5日目:水中の生物と鳥を造る
6日目:野に住む動物を造る。
6日目:これらの生物を支配する存在としてヒトを自らの形に似せて造った。

このような天地創造の「創造論」は、当時の科学界にも浸透しており、誰も疑問を持つ者はいなかったと言われています。

つまり、キリンの首が長いのは、
神がそのように造ったから。そんなの当たり前じゃん。
という考えでした。

ちなみに、科学が発展した現代においても、後に紹介するダーウィンの進化論を否定し、このような考えを持ち続ける人はアメリカを中心に一定数いるそうです。
その話をすると長くなるので、興味がある方はこちらの本がオススメ。

反・進化論講座―空飛ぶスパゲッティ・モンスターの福音書

そんな創造論的考えを比定し、
「生物は進化する」と最初に唱えたのが、フランスの博物学者ラマルクでした。

 

ラマルク

A:高いところにある葉っぱを食べようと努力し続けたことで、次の世代、そのまた次の世代の首がちょっとづつ伸びていったから。

生物は進化するという説を最初に唱えたのは、フランスの博物学者ラマルクです。
彼は19世紀初め、生物進化に関して「用不用説」と「獲得形質の遺伝」という2つの説を唱えました。

【ラマルクの説】
  1. 用不用説:動物が頻繁に使う器官は、次第に発達し強力なものになっていく。反対に、使わない器官は次第に能力が無くなっていき、消失する場合もある。
  2. 獲得形質の遺伝:それぞれの個体で獲得した能力、もしくは失った能力は次の子孫に遺伝する。

つまり、環境の変化に適応しようと生物が努力をすることで、身体的能力に何らかの変化が生じる。そして、その変化は次の世代にも受け継がれるという説を唱えたのです。

この説を用い彼は、
キリンの首が長いのは、何世代もの間、キリンが高いところへ首を伸ばそう伸ばそうと努力をした結果だからだ。
と説明しました。

それから50年後、そんな彼の説を否定し、自然選択による進化説を唱えたのがダーウィンです。

 


ダーウィン

A:突然変異によって、首の長いキリンが生まれ、首の長いキリンだけが生き残っていったから。

現代まで続く進化論の出発点となり、宗教界にも大きな影響を与えたダーウィンの進化論。

1809年イギリスに生まれたダーウィンは、22歳から5年間ビーグル号で世界一周の旅にでました。
その旅で多様な生物と出会ったダーウィンは「生物は進化している」と考えるようになりました。

ダーウィンは、生物は「自然選択」により進化していると考えました。

【ダーウィンの説】
同一の種でも個体間によって特徴に差異が生じている。
その差異によって、ある個体は他の個体よりも、多く餌を食べられたり、より異性から選ばれたりして、多くの子孫を残すようになる。
次第に自然の適応に有利な特徴を持った個体が生き残り、そうでない個体は淘汰されていく。(自然選択
そのようにして、ある特徴を持った個体が自然に選ばれていくことで、生物は変化していく。

そうダーウィンは考えました。

つまり、キリンの場合だと、
偶然首の長いキリンが生まれ、高いところにある葉っぱを食べられたから、首の長い個体だけが生き残っていったのだ。
と説明しました。

これら2人の進化論はどのようにして世間に受け止められたのでしょうか。

ダーウィンとラマルクの進化論のその後

ダーウィン

ダーウィンはみなさんご存知の通り、現代まで続く進化論の出発点とされています。彼のWikipediaにはこんな記述が。

自然選択説は現在でも進化生物学の基盤の一つである。また彼の科学的な発見は修正を施されながら生物多様性に一貫した理論的説明を与え、現代生物学の基盤をなしている。 (Wikipedia[ダーウィン]の説明より)

ダーウィンの「自然選択説」が一般に支持される中で、
ラマルクの「獲得形質の遺伝」という考えは、多くの学者から否定され続けます。

ラマルク

ラマルクの説は発表以後現代まで、多くの学者たちから批判され続けました。

今日、進化論を研究する者の間で、”ラマルク主義”と呼ばれることは侮辱的言動を受けるに等しい。それは、現代科学においては受け入れがたい生物進化のアイデアを提唱した18世紀のフランス人博物学者ラマルクを想起されるためである。(『眠れなくなる進化論の話』p14)

つまり、生物の変化は突然変異という偶然によるものだ。
親が獲得した経験は遺伝しない。
経験や記憶は次の世代には受け継がれない

この考えが100年以上前から現代まで常識として世間に受け止められてきました。

そんな常識を覆す実験結果が2013年12月1日に公表されました。


~新たな研究結果~

恐怖の記憶は遺伝する?

アメリカエモリー大学の研究者ブライアン・ディアスとケリー・レスラーは、ネズミに電気ショックを使って「記憶は遺伝するのか」の実験を行いました。

実験内容は以下の通り。

【実験内容】
  1. ネズミにアセトフェノンという桜に似た匂いを嗅がせる。
  2. 匂いを嗅がせた直後、電気ショックを与える。
  3. それを繰り返す。(ちょっとかわいそうですが。。)

その結果、
ネズミはある時点から、匂いを嗅いだだけで電気ショックにおびえ始めるようになります。
「匂いがしたら、電気ショック」という記憶が脳内にインプットされたわけです。
ここまではよくある条件反射の実験

大事なのはここからです。

次に、このネズミに子供を産ませます。
そして、その子供にあの桜の匂いを嗅がせてみると、、
なんと、匂いに敏感に反応しだしたのです。
親が電気ショックを受けていない子ネズミよりも、あの匂いに強く反応することが分かったのです。

さらに、さらに、
その子供。
最初のネズミからすると孫ネズミに、あの桜の匂いを嗅がせてみると、
同様に、他のネズミよりも強い反応を示したのです。

この実験から何が言えるのか。
研究者らは「恐怖の記憶」が子や孫に伝わったと解釈しました。

つまり、過去100年間「経験は遺伝しない」とされていた常識を覆すかもしれない実験結果だったのです。
今まで否定され続けたラマルクの説に光を当てることになったのでした。

今回のこの実験結果は近年注目されている「エピジェネティクス」が関係しているのではと言われています。

エピジェネティクス

近年、エピジェネティクスという学問領域が注目を集めています。

同じDNAを受け継いだとしても、DNAの働き方が異なるケースがあります。
例えば、ガンになりやすい親から一卵性の双子が生まれた場合、
片方はガンになりやすいが、もう片方はガンになりにくい場合があるそうです。

これは、例えDNAが同じだとしても、DNAの働き方を調節する何らかの機能が個体間によって違っているからだと考えられています。
この機能をエピジェネティクスと呼んでいるそうです。

今回の実験もこのエピジェネティクスが鍵を握っているのではと考えられています。

今回の実験はまだ確固たる証拠がそろっておらず、憶測の状況です。
が、今回の実験結果を機に、「遺伝」ひいては「進化」という謎に今後更なる力が入れられて研究が進められていくのでしょう。
期待して研究を待ちたいと思います。

 


~Mrchildrenの『進化論』~

ミスチルの『進化論』

今回のこのニュースをもとに桜井さんは『進化論』という曲を製作されました。(コンサートでの曲紹介でそう仰っていました。)

以下、『進化論』の歌詞抜粋です。

進化論では首の長い動物は
生存競争の為にそのフォルムを変えてきたと言う
「強く望む」ことが世代を越えて
いつしか形になるなら この命も無駄じゃない
・・(中略)・・
変わらないことがあるとすれば 
皆 変わってくってことじゃないかな?
描かずに消した 読まずに伏せた
夢をもう一度広げよう (『進化論』の歌詞より抜粋)

 

【歌詞の解釈】
キリンは必死に首を伸ばして葉っぱを食べようと努力した。
例え自分の代で首が少しも伸びなかったとしても、その努力は次の世代に受け継がれ、現代のキリンの首はあんなにも長くなった。

自分の叶えようとして努力した夢や希望が、
例え叶えられなかったとしても、
その努力は次の世代に受け継がれていく。
自分に今後子供ができなかったとしても、
周りの人に受け継がれていくこともある。

そうやって、世界は今まで周ってきた。
そしてこれからも、こうやって周りまわっていくのかもしれない。
そう考えると自分のしてきたことは決して無駄にはならない。

桜井さんはこの曲にそんな意味を込めているのだと思います。

自分の努力が次の世代に受け継がれていく。
そう考えるとなんだかこの人生も捨てたものじゃないのかなと思えませんか?

今回の説はまだ完全に証明されたわけではありませんが、
今後は桜井さんの『進化論』を信じて日常を生きていこうかな?
そう思ったニュースでした。


おすすめ作品

未完
『進化論』(曲)はiTunesでは購入できませんので、上記のアルバム『REFLECTION{Drip}』か、ライブDVDの『未完』で聴いてみてください。
特に、このライブDVDは本当に感動する作品となっていますので、ぜひ映像と共に『進化論』を聴いてみていただきたいです。


参考図書

聖書ガイドMOOK よくわかる聖書入門

 ・知識ゼロからのダーウィン進化論入門