新型コロナウイルスで混乱する現代社会をそのまま描いているかのような予言的小説でした。
「クジラアタマの王様」概要
製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい…はずだった。訪ねてきた男の存在によって、岸の日常は思いもよらない事態へと一気に加速していく。不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥。打ち勝つべき現実とは、いったい何か。巧みな仕掛けと、エンターテインメントの王道を貫いたストーリーによって、伊坂幸太郎の小説が新たな魅力を放つ。(Amazonより抜粋)
現実世界と夢の世界とが関連するパラレルワールド的内容で、ファンタジー感強めの作品です。
とはいえ、読み進めていくと「こんなことがホントに世の中に起こっているのでは?」と思えてしまうから不思議なものです。
伊坂さんが紡ぎだす心地よい文体と共感できるキャラクターが描かれているからこそ、そう感じられるのかなぁと思います。
夢の世界は漫画で表現
この作品の特徴的な点は、「現実世界」を文章で表現しているのに対し、「夢の世界」を漫画で表現している点です。
上記画像のように、夢の世界は漫画で描かれています。
しかも、セリフが一切出てきません。
「現実世界」は文章だけで表現しているのに対して、
「夢の世界」は画だけで表現しているのです。
想像力を切り替えながら読み進めていくことが求められる、非常に面白い実験的小説です。
後半から新型ウイルスに悩む社会が描かれる
作中の「現実世界」では、後半から新型ウイルスに悩まされる社会が描かれます。
海外で新型鳥インフルエンザが流行。
いつか日本にも感染者が現れるのでは?と恐れていたら、主人公の近くでついに感染者が出てしまう。
マスコミや近隣住民から犯罪者のように騒ぎ立てられる感染者たち。
主人公は彼らを守れるのか?
この小説が発行されたのは2019年7月です。
コロナウイルスが問題になる約半年前に発表されていたのです。
作中に描かれている状況は、コロナウイルスで混乱する現代社会そのままを描いています。
- ネット上で感染者を特定する熱が過熱。様々なデマが横行。
- 感染者の自宅に群がるマスコミ
- 不要不急の外出を求める行政府
- 咳をしている人に対する冷たい視線
- 騒動の中、海外旅行をした者に対するバッシング
- 訪日外国人への差別
- 日用品の買い占め
などなど。
私がこの小説を読んだのは2020年4月なのですが、
「この小説ってたった今書かれたの?」と、何度も確認したくなりました。
それぐらい小説に書かれていることが、現代社会でもそっくりそのまま起こっていたのです。
人を動かすのは感情
作中のことが現実になったのはたまたまではなく、伊坂幸太郎さんの類まれなる洞察力の高さゆえのことかと思います。
作中で主人公はこのように言います。
人間を動かすのは、理屈や論理よりも、感情だ。
SNSの発達で感情が集合的に伝染しやすい状況になっている現代だからこそ、危機に瀕した時の社会の動きは予測しやすくなっているのかもしれません。
いづれにせよ、作者の洞察力の高さに驚愕した作品でした。
現代社会を客観視する上でおすすめの小説
結末は陰謀論的な内容になっているので、解決策は参考にはならないかもしれません。
むしろこの結末を真に受けた人が新たな敵を作り出してしまいそうな気がして怖くも感じます。
ただ、この作品を読めば、現在の社会的状況をメタ的に客観視することができます。
混乱している今だからこそ、この小説を読んで自分たちの行動を顧みても良いのかもしれません。
また、エンタメ小説としてももちろん非常に面白いので、ストレス解消のためにもお勧めできます。伊坂幸太郎さんの小説を読んだ後に感じる「スカッと感」は今作でも健在です。
今作でカギを握るのは、ハシビロコウという大きな鳥です。
この情報だけでも面白そうじゃないですか?(笑)
物語には人を癒す効果があると思っています。
こんな時だからこそ、ぜひ小説を読んでみてはいかがでしょうか?