トランプ大統領を罷免できるの? ~アメリカ大統領の弾劾と辞任について~

アメリカ大統領就任以降、常にニュースの顔となっているトランプ大統領
そんなトランプ大統領が弾劾されるのでは? という言葉をニュースでよく聞くようになりました。

今まで弾劾裁判で罷免された大統領はいないようなのですが、本当にトランプ大統領は弾劾されてしまうのでしょうか?

今回はアメリカ大統領の弾劾制度についてまとめてみました。

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きっかけとなったロシアゲート疑惑とは

弾劾のきっかけは、一連の「ロシアゲート疑惑」です。
内容は主に3つあります。

  • 大統領選挙中に、民主党のヒラリー・クリントン候補に不利な情報を得るためにロシア人弁護士や元ロシア情報機関工作員と面会。更に民主党本部へのサイバー攻撃にも関与?(⇒選挙妨害では?)
  • 2017年5月、ロシアの選挙介入について捜査しようとしたコミーFBI長官を更迭(⇒司法妨害では?)
  • 2017年5月、ロシアのラブロフ外相と会談した際、イスラエルから得た秘密情報(イスラム国によるラップトップパソコンを使った航空機テロ計画の情報)をロシアの外相に伝えたのでは?(⇒機密漏洩?

アメリカという超大国の大統領選挙や政権運営が外国の関与を裏で受けていて良いのか?
そんなことを許してしまう人物を大統領にしてしまって良いのか?
という前提がこの疑惑事件の根幹にあります。

ロシアゲートの「ゲート」って何?

アメリカ大統領の歴史の中で最も有名な事件の一つ「ウォーターゲート事件」。この事件以降、政権が関与する疑惑が生じると、第2、第3のウォーターゲート事件だ!ということで、「〇〇ゲート事件」という表現をメディアは好んで使うようになりました(例;ビルクリントンの「ファイルゲート事件」)。そんなことから今回の事件も、「ロシアゲート事件」とメディアは呼んでいます。

 

弾劾についての根拠規定

大統領への弾劾は、下院が訴追権限を有し、上院が弾劾裁判を執行します。
アメリカ合衆国憲法ではこの制度についてこう定めています。

第1章立法部  第2 条[下院]
下院は、議長その他の役員を選任する。弾劾の訴追権限は下院に専属する。

第1章立法部  第3 条[上院]
[第6 項]すべての弾劾を裁判する権限は、上院に専属する。(省略)合衆国大統領が弾劾裁判を受ける場合には、最高裁判所長官が裁判長となる。何人も、出席議員の3 分の2 の同意がなければ、有罪の判決を受けること はない。

第2章執行部  第4 条[弾劾]
大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき 弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる。

つまり、下院が訴えを起こして、上院が審査する
という流れです。

ちなみに、最後の条文に定められている「その他の重大な罪」とは、刑罰に該当する犯罪行為を同意ではなく、大統領としての越権や権力乱用も該当すると定義されています。(参考:Is Impeachment Limited to Criminal Acts? の章

弾劾制度の流れ

下院が手続きを開始

弾劾手続きは下院から始まります。
通常の法律が提出されるように、個々の議員が弾劾決議案を提出できます。
通常は、下院司法委員会が公聴会を開催し、本会議に決議案を提出するかをまず決めます。
決議案が本会議に提出された場合は、過半数以上で上院に送られます。
下院の全議席数が435議席のため、可決されるためには218議席以上が必要になります。 

上院全体で審議

下院で過半数得られた場合は、上院で弾劾裁判が行われます。
大統領の弾劾の場合は、以下のような役回り。

  • 裁判官:最高裁長官
  • 陪審員:上院議員100名
  • 検事役:下院調査担当者
  • 弁護士:ホワイトハウス法律顧問

公聴会を開催後、上院全体で審議されます。
審議の結果、上院議員の3分の2以上が有罪と判断すれば、大統領は罷免されます。
上院議員は議席数100名のため、67人以上が有罪と判断する必要があります。

トランプが弾劾で罷免される可能性は?

では、実際にトランプが大統領で罷免される可能性はあるのでしょうか?
結論としては、可能性は極めて低い状況です。

【下院】

議席数:435議席
過半数:218議席

<2017年9月現在の議席数>
共和党:238議席
民主党:193議席

【上院】

議席数:100議席
3分の2:  67議席

<2017年9月現在の議席数>
共和党:  52議席
民主党:  48議席

民主党員全員が弾劾を支持したとして、
共和党から、下院では25人(全体の10.5%)上院では19議席(全体の36.5%)以上が反トランプに回らなければ、トランプ大統領を罷免することはできません。

このことから、現実的にはトランプが弾劾裁判で罷免される可能性は極めて低いです。

実際に弾劾訴追を受けた大統領

この弾劾手続きにより大統領職を罷免された者は、今までには存在しておりません。
ただ、弾劾裁判を受けた大統領や、審理を受ける前に辞任した大統領はいました。

1868年 アンドリュー・ジョンソン大統領

リンカーン大統領の暗殺を受け、就任したA・ジョンソン大統領。
彼は、前任のリンカーン氏の政策に反し、南部人に寛大な政策(レコンストラクション)を実施し、共和党員から大反発を受けます。
更に政敵である当時の陸軍長官を罷免したことが当時の法律に反するとされたため、弾劾訴追を受けることになりました。

弾劾決議案は下院を通過し、上院で審議されます。
上院の採決結果は、罷免賛成派が全体の約65%。
賛成票があと1票足りなかったため、何とか罷免は免れました。

1974年 リチャード・ニクソン大統領

1期目の大統領任期が近くなり、2期目を目指していた共和党のニクソン大統領。無事、選挙を勝ち抜き、2期目に入ったのもつかの間、大統領選挙中に、民主党本部があるウォーターゲートビルに何者かが不法侵入し、盗聴器をしかけた疑惑が浮上。捜査の結果、逮捕されたのはニクソン大統領の側近だった。
自らへの捜査が及びそうになる中、大統領は事件のもみ消しを図る。
ニクソン本人への疑惑が大きくなる中、遂に下院司法委員会が弾劾の発議を可決。下院の本会議でも可決されることが予想される中、採決前にニクソンは辞任を表明しました。

これら一連の政治スキャンダルが、有名な「ウォーターゲート事件」です。
このまま審議を続けていれば、ニクソンは罷免されていた可能性が高かったといわれています。

1998年 ビル・クリントン大統領

彼は疑惑の宝庫で、様々な疑惑を受けたことにより大統領の品格が問われる形で弾劾訴追を受けました。

決定的な事件は1998年の「モニカ・ルインスキー事件」。
これは、ホワイトハウスの実習生、モニカ・ルインスキーが大統領執務室でクリントンと「不適切な関係」を持ったことが公になった女性スキャンダル事件です。

この事件をきっかけに、下院は弾劾決議案を可決。
上院での審議の結果、何とか罷免は免れました。

トランプが辞めたらどうなる?

今まで見てきたように、実際にトランプ大統領が弾劾裁判により罷免される可能性は極めて低い状況です。
しかし、前代未聞のトランプさん。何が起こる予想がつきません。
また、ニクソンのように弾劾を受けて自ら辞任する可能性もあります。
更に歴史を見れば、暗殺されるケースもあります。。

では、トランプが辞めることになった場合、誰が大統領に就くのでしょうか。
その場合、副大統領のペンスが大統領に昇格します。

彼は、税率軽減策の恒久化や不動産税の撤廃に関する法案を提出する等、小さな政府を志向する財政保守派と言われています。
また、キリスト教に熱心で、LGBTの権利保護策に反対するような極めて保守的な人物です。

今の内からペンスさんの言動に注目しておくことは大事なのかもしれません。