押し付けられたルールを破ることは、本当に悪いことなのか?
この映画を観てそう思いました。
今回観た作品は『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』というタイの映画です。
作品情報
作品名:『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
公開日:2019年9月22日(日本)
劇場 :新宿武蔵野館
監督 :ナタウット・プーンピリヤ監督 (通称、バズ監督)
主演 :チュティモン・ジョンジャルーンスックジン
原題 :『Chalard Games Goeng』2017年公開(タイ)
公式サイト:https://maxam.jp/badgenius/
監督のナタウット・プーンピリヤ監督はもともとタイ国内でCMの監督をしていた方です。
彼の作るCMが国内で注目を浴び、映画作品も手掛けるようになった注目の若手監督だそうです。
この作品がタイで公開されるやいなや大ヒット。
タイだけでなく、アジア各国でブームとなり、タイ映画の中で最もヒットした映画だそうです。(公式サイトより参照)
あらすじ
勉強だけは誰にも負けなかった天才女子高生・リン。特待奨学生として転校した学校で彼女の人生は大きく変わることになる。
転入した高校で仲良くなった友人のグレースが次のテストで高得点を取らないといけない状況を知ったリンは、彼女のテストを手伝うことに。自分の答案をカンニングをさせてあげたのだ。
リンのおかげでテストを乗り切ったことを知ったグレースの彼氏パットは、リンにあるビジネスを持ち掛ける。勉強で困っている学生にリンがテスト中に答えを教え、代金をもらうカンニングビジネスである。
リンは得意な頭脳を使ってカンニング方法を発案し、ビジネスを大きくさせていった。
そんなある日、カンニング仲間がアメリカの大学に留学するための統一試験を受けることに。彼らはこの統一試験もカンニングで乗り切ることを企てる。
果たして、リンはアメリカの入学試験を攻略することができるのか?
心地良いリズムと音で観客の心をグッとつかむ作品
この作品を手掛けたバズ監督は、元々タイでCM監督をされていたということもあり、一つ一つのシーンがとてもテンポ良く、心地よいストーリー展開でした。
この作品の特徴の一つは、音です。
「鉛筆でマークシートを塗りつぶす音」、「ピアノを弾く音」、「時計が刻む音」。
日常生活の何気ない音を感情表現として効果的に活用しており、まんまと心をつかまれました。
テンポの良さと効果的な音の組み合わせで、観客の心をグッとつかんで離さない没入感の高い映画でした。
ただの娯楽映画ではない。タイの社会問題を扱った社会派映画
ストーリーの中心はカンニングです。カンニング映画と聞いていたので、エンターテイメント性の高いにぎやかな映画だと思っていました。
しかし、実際に観てみると、タイが抱える社会問題をふんだんに描いている作品でした。
描いている問題は、国内の貧困格差、熾烈な受験戦争とカンニングやわいろの横行、先進国と新興国の関係などなど。(バズ監督曰く、タイの教育現場ではカンニングやわいろが横行しているようです。)
印象的だったのは、ある学生が路地裏で不良に絡まれ暴力を受けるシーン。その学生は気付いたらゴミ山に捨てられていました。
ゴミ山と言ってもフィリピンのスモーキーマウンテンのような巨大なゴミ山です。
彼らの日常はスマホでLINEして、パソコンはiMacと、日本人と変わらない生活を送っています。
中にはプール付きの豪邸に住む学生も。
その一方で、ゴミ山がすぐ近くに存在している現実。
この作品を観ていると、タイが抱える大きな貧困格差をうかがい知ることができます。
押し付けられたルールを破ることは悪なのか?
この映画のメインテーマは、学生たちが押し付けられたルールを打破しようともがく姿勢です。
学生たちは社会から様々なルールを押し付けられます。
・テストの成績が良くなければ、校内の演劇に出演できない。
・貧困から脱するためには、アメリカの大学に行くのが一番。そのためには、アメリカの統一テストを受けなければならない。
こういった状況の中でタイの学生たちは大胆なカンニング作戦を企てます。
確かに、カンニングはルール違反です。
しかし、既存の枠組みから押し付けられたルールを破ることは本当に悪いことなのでしょうか?
彼らは不合理なルールを押しつけられ、立場の弱い状況で苦しんできました。
そんなルールを従順に守り続けることは美徳なのか?
ただの都合の良い言いなりなのではないのか?
主人公のリンが作戦会議の最後に放った言葉が強く頭にこびりついています。
「世界に騙されない。私たちが世界を騙すんだ」
学校と学生、先進国と新興国。
立場の弱い者はいかに世界に向き合うべきなのか?
この映画は、押し付けられたルールを守るのではなく、破ることを決断した若者の反逆の物語に思えました。
今まで映画といえば、日本かアメリカの映画でした。
普段見る機会の無い国の映画を観ると、新たな視点が得られることをこの作品を観て学びました。
作品も出演者もとても親近感を感じられる映画ですので、ぜひ興味がある方は観賞してみてはいかがでしょうか。