実存した結婚詐欺師「クヒオ大佐」をめぐる作品【映画・舞台】

先日、戦後の日本社会に現れた結婚詐欺師「クヒオ大佐」を題材にした作品を2作鑑賞しました。

一つは映画『クヒオ大佐』(2009年)。

もう一つは、舞台『クヒオ大佐の妻』(2017年)。

どちらも、監督は『桐島、部活やめるってよ』や『パーマネント野ばら』などを手掛けた吉田大八監督によるものです。

過去の日本で実際に起こった事件をコミカルに描いた2つの作品ですが、ただ単純に笑い飛ばすだけではすまない問題提起をしているようにも感じました。

今回はそんなクヒオ大佐を巡るお話。

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クヒオ大佐とは

そもそもクヒオ大佐とは?

クヒオ大佐は1970年代から90年代にかけて日本に登場した結婚詐欺師。

日本人でありながら自らをアメリカ空軍の「クヒオ大佐」と名乗り、交際女性に結婚話を持ち掛け、結婚費用などという名目で約1億円をだまし取った実在する日本人です

純日本人でありながら、多少日本人離れした顔つきをしていた北海道出身の元自衛官。
髪を金髪に染め、レプリカの軍服を身にまとい、カタコトの日本語で女性に近づき、こう自己紹介をするのです。

自分は、

●ジョナサン・エリザベス・クヒオ。
●アメリカ空軍パイロットでベトナム戦争や湾岸戦争に従事していた。
●カメハメハ大王やエリザベス女王と親戚関係にある。

そして、私と結婚すれば、

●アメリカ軍から5000万円の結納金が支給される。
●イギリス王室からも5億円のお祝い金が出る。

と女性に持ち掛けるのです。

嘘の話を信じ込んだ女性から、結婚式費用の前金が必要になったとお願いし、お金をだまし取っていたのです。
被害額は1億円を超えると言われています。

その後、逮捕され事件が全国に知れ渡ることになりました。
後に釈放され、現在もご存命らしいです。

そんな一連の事件を題材に制作されたのが映画『クヒオ大佐』です。

映画「クヒオ大佐」

【作品情報】
  • 公開:2009年10月10日
  • 監督:吉田大八
  • クヒオ役:堺雅人
  • 騙される女性役:松雪泰子、満島ひかり
  • 印象に残ったセリフ:「だましたんじゃない、相手が望むことをしてやっただけだ!」

 

【あらすじ】

クヒオ大佐を演じるのは堺雅人。
甘いマスクで、カタコトの日本語を喋り女性に近づいていきます。
そんなクヒオ大佐を怪しいと感じつつも騙されてしまう女性の役を演じたのが松雪泰子と満島ひかり。
松雪泰子演じる弁当屋の経営者は、騙されていると気づきつつも、クヒオ大佐にお金を貢ぎ続けてしまう。

満島ひかりが演じるのは、彼氏を同僚に奪われ自暴自棄になった博物館員。彼女は少しづつ大佐が気になり始め、しまいには大佐の言いなりになってしまう。

そんなクヒオ大佐も終盤に嘘がばれてしまうが、最後の最後まで虚像を演じ続ける。そこには過去のコンプレックスがあった。。

【感想】

行き当たりばったりでバレバレな嘘をつき続けるクヒオ大佐。彼の姿は終始笑いを誘います。
「こんな男なんかに騙されないだろう(笑)」と思うのですが、これは実際にあった事件なんだということを思い出し現実に引き戻されます。

自らのコンプレックスに囚われ、理想とする人間を演じ続けるクヒオ大佐。
そして、そんな彼を最後まで信じ続ける弁当屋の女性経営者。

作品自体はコミカルに描かれているのに対して、登場人物は寂しく救われない生活を送っている。そのギャップにやるせなさを感じました。

終盤、警察に捕まったクヒオ大佐はこう叫びます。
「だましたんじゃない、相手が望むことをしてやっただけだ!」

強い人間になりたかったクヒオ大佐。
アメリカ軍人と付き合って自分が価値のある人間だと思い込みたかった女性達。
日本人の心の底にある「アメリカコンプレックス」が上手くあぶりだされていたように感じます。

舞台「クヒオ大佐の妻」

映画を撮り終えた吉田監督が、8年後に再びクヒオ大佐を題材にして作品を作りました。それが、舞台『クヒオ大佐の妻』です。

【作品情報】
  • 公開:2017年5月19日~2017年6月11日
  • 監督:吉田大八
  • 会場:東京芸術劇場
  • クヒオ役:―
  • 騙される女性役:宮沢りえ
  • 印象に残ったセリフ:「日本人男性はみな一度死んでおり、女性はみな一度犯されている!」

【あらすじ】

質素なアパートで一人ミシンを踏む女性(宮沢りえ)。女性は服の仕立て直しや丈直しで生活の糧を得ていた。

その部屋に頻繁に荷物を届ける宅配の配達員(岩井秀人)。彼はその部屋の女が学生時代のマドンナ的存在だったということに気づき距離を縮めようとする。

実はその宅配便の彼は、小説家志望だった。そして、昔マドンナ的存在だった憧れの女性が今は結婚詐欺師「クヒオ大佐」の妻であるという噂を知り、自分の作品の題材にしようと企み女に近づいていたのだ。

宅配物を渡しても部屋から出ようとしない男、彼を嫌がる「大佐の妻」。また、彼女の部屋にはクヒオ大佐にあこがれる近所の子供(水澤紳吾)が出入り。
さらに、その女の部屋の押し入れには別の女性(川面千晶)が手足を縛られ軟禁されていた。
彼女はクヒオ大佐に騙された女性の内の一人で、騙されたことに気づきクヒオ大佐の妻に文句を言いに来ていた。

彼ら登場人物によって、語られるクヒオ大佐の実像と虚像。
しかし、周囲がどんなにクヒオ大佐のことを嘘だと伝えても、絶対に嘘を信じようとしないクヒオ大佐の妻。
彼女は最後までクヒオ大佐を信じ続け、ボロアパートでミシンを踏み続ける。。

 

【感想】

あらすじを読んでいただけると分かりますが、この作品にはクヒオ大佐は登場してきません。
クヒオ大佐の妻を中心に各登場人物がクヒオ大佐を語ることによって、彼の姿が徐々に浮き上がってくる構成となっています。
これは同じ吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』と似たような構成ですね。
観ているこちらとしては、ついついクヒオ大佐の登場を待ちわびてしまうのですが、周囲の人物が彼を語ることによって、クヒオ大佐の輪郭があらわになってきます。

作品のメッセージ性は先述の映画よりも、より強い作品として仕上げられた印象です。
印象に残っているセリフは、「日本人男性はみな一度死んでおり、女性はみな一度犯されている!」というもの。

第二次大戦で敗北し、戦後はアメリカの傘に入って守られてきた日本。
日本人の心の中にはアメリカへの強いコンプレックスが存在している。そんな日本人がアメリカ軍人に憧れて、何が悪い!
大佐の妻が観客に対して疑問を投げかけるセリフでした。

 

自分が信じたいことを信じる

2つの作品に共通して描かれていたのが、嘘だと気づきつつも最後まで信じ続ける女性の妄信的な姿。

彼の言葉は全て嘘かもしれない。しかし、目の前にいる男性が存在していることは事実。彼との関係性を保ちたいがために、作中の女性は嘘さえも受け入れて男性と一緒にいるという「運命」を受け入れます。

今回の2つの作品を観て古代ローマの政治家カエサルの言葉を思いだいました。

Men willingly believe what they wish.
(人は喜んで自己の望むものを信じる。)

人間は、いつの時代も目の前の現実ではなく、自分が信じたいことを信じてしまう生き物なんでしょうか。

不都合な現実を自分は受け入れられているのかな。
そんなことを自分自身に問いたくなる作品でした。

みなさんも一度クヒオ大佐の作品を鑑賞してみてはいかがでしょうか。

【映画『クヒオ大佐』が観れる映画動画配信サイト】

以下のサイトで『クヒオ大佐』を観ることができます。
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